『クルマは最高のトモダチ』ロードスターの神髄、ここにありッ!…山田弘樹連載コラム

  • マツダのロードスター990S

    (写真:宮越孝政)

    軽いボディにマッチングさせた足周りはしなやかで、普通に走っていてもクルマの動きを感じ取り、楽しめる。990Sはコーナリング性能を突き詰めた仕様ではないけれど、だからこそロードスターが持つ魅力の一面を、色濃く表現することができていた。

いまメディアを賑わしているロードスターの新グレード「990S」に試乗してきました!
車両開発部の梅津大輔さん(ドライビングシューズの回でも登場しましたね)に以前から、「ロードスターの走り、すごく良くなるので乗って欲しいんですよ。その内容は、まだ言えませんケド!」と、無茶振りなお預けをされていたモデル(笑)。
これに、とうとう乗る日がやってきたワケです。

「990S」はずばり、車重が990kgであることからその名が付けられています。
ベースとなっているのは一番価格が安い「S」で、これに1輪あたり800g軽くなるRAYS製16インチアルミホイールと、ブレンボ社製の対向4ピストンキャリパー+大径ベンチレーテッドディスク(フロント)/大径ブレーキディスク(リア)を装着して、さらなる軽量化を図っています。
ホイールで軽量化を図るのはチューニングのセオリーですが、ノーマルの片押しキャリパー&ローターよりも、対抗ピストンや大径ローターの方が軽いとは驚きです。

さて肝心な990Sですが、ここで詳しい人は「え?『S』グレードも車重は990kgだよね?」と思うかもしれません。そうなんです。990Sはホイールとブレーキシステムで確実に軽くなっているのですが、主要諸元上だと5kg以下は切り捨てとのこと。たとえば994.9kgでも、990.0kgでも、990kgと記載する。だから表記上は同じ重量なのだそうです。

  • マツダのロードスター990S

    黒いキャリパーに青い文字で書かれた“brembo”の文字は新鮮。驚いたのはノーマルのブレーキシステムよりもその重量が軽いということ。

さてさて試乗は、2台の比較で始まりました。
まず一番最初に走らせたのは「S」グレード。これは自分も以前から気になっていたモデルなのですが、仕事では同じSでも「S Special Package」だったり、走りの「RS」しか試乗していかなかったんですよね。
果たして一番ベーシックな「S」でしたが、これが、ものすご~くマニアックな一台でした(笑)。

「おいおい、これジュリア・クーペかよ!」
「60年代のスポーツカーと同じ動きするよッ!?」

簡単にいうとサスペンションのストロークが現代のクルマよりも大きくて、フロントの応答性(グリップや手応え)が、ロードスターの中では一番ユルい感じ。ロールをブレーキで制御してボディの向きを変え、アクセルで動きを止めて定めて立ち上がる。
フロントのグリップでノーズをスパッと入れて行くタイプではないから、こういう動きを知らないと運転が難しく感じるかも。

でもきれいに決まると、フロントタイヤの内輪をリフトさせながら、リアにがっつりトラクションを掛けて立ち上がれるんです。ETC(ヨーロッパ・ツーリングカー選手権)の写真なんかを見ると、当時のクルマたちはこの走り方してます。

「うははー! なんだこりゃ。面白い!!」

聞けばこの「S」グレードは、初代NAロードスターの走りを現代解釈することが狙いだったそうです。街中をゆっくり走っていても、クルマとの対話を楽しめるのがロードスター。そういうピュアな部分を残したかった。
そのためにAT用の車体パッケージを使い、遮音材も取り去って、1tを切る軽さで作り上げた。AT車はフロアトンネル部分のブレースがなく、そのソフトなフロントのロール剛性に合わせて、リアのスタビも取り去ってバランスを取った。だから結構、ボヨヨンしています(笑)。
サーキットを走るためではなくて、街中を楽しく走るために作られた、開発陣の裏メニュー的な存在だったようです。

でも「S」なんて名前が付いているとどうしても、「スポーツ」を連想しちゃいますよね。もしくはS Special Packageの廉価版? なんて思っちゃう。けど、そうじゃないのです。
だったらいっそ「ピュア」とか、「Classic」なんてネーミングにしたらカッコよかったかもね!
ともかく、美しく走らせるのが楽しい、ちょっとマニアックなロードスターでした。
こういうの好き!

  • マツダのロードスター990S

    エンジン出力(132PS/152Nm)に変更はなし。SKYACTIVE-G 1.5はロードスターにベストマッチングなエンジンだとこれまでも思っていたが、車重が1tを切るとさらにそのキレの良さが鮮明になった。ちょっと非力だな…という印象が薄まり、質感さえもが楽しめるようになった。

そして真打ち「990S」ですが、これはさらに唸らされました。
そのバネ・ダン(スプリングとダンパーのことですね)は、軽くなったバネ下への対応も含めて最適化されています。面白いのはそのスプリングレートが「S」よりも固められているにもかかわらず、ダンパーは前後ともに伸び側を緩めにセッティングしていること。
そうすることで車体を押さえつけるような動きを“ほどいて”、しなやかにボディコントロールしているというのでした。

実際その走りは変なクセが、まったくない。頭の中で思い描くロードスターの走りが、スイスイできちゃう感じです。
ただ身のこなしが軽い上にブレーキのタッチもいいので、ついつい熱くなっちゃうのも事実。するとフロントの抑えが少し効かなくて、おいしい所を外れちゃう。

「もう少し伸び側固めたいな」なんて思うなら、「RS」を選ぶべき? ついつい手を入れたくなっちゃうけれど990Sの良さは、この軽さとしなやかさにあるから、このまま乗るのが良いのだろうな…と思いました。
でもブレンボのキャリパーとRAYSのホイール履いてたら、元気に走りたくなっちゃうよね~。あぁややこしい!(笑)。

  • 990Sには「S Leather Package」に設定されたネイビートップと同じ、ダークブルーの幌が装着されていた。

もうひとつ今回の商品改良で面白かったのは、「キネマティック・ポスチャー・コントロール」(KPC)でした。
これは旋回時にリアの内輪に微力なブレーキを掛けることで、車両姿勢を安定させる制御。ロードスターのリアサスペンションには、ブレーキング時に車体を沈み込ませて安定化を図る「アンチリフト特性」が与えられています。そしてこれをコーナリング時に利用して、ボディの浮き上がりを抑えてくれるというのです。

正直990Sだと4輪のバランスがよいからか、オン/オフの差はあまり感じませんでした。でもこの後に乗った「RF RS」や、「S Special Package」では、リアダンパーを少し締めたような安定感が出ました。
その実ダンパーは締め上げられていないから、乗り心地は快適なまま。

内輪ブレーキというとトルクベクタリングのように、電子制御でクルマを無理矢理曲げるようなイメージがあるけれど、そういう制御ではない。ジオメトリーの特性を使って、安全に走れるように仕上げられた見事な制御でした。
このKPC、DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)を切ると解除されるのですが、オフでも使えたらいいのに。というか、KPCのスイッチがあればいいのに。
でもそうしないのは、まずはDSCと連動した制御技術だからみたいですね。あとはパーティレースなんかでも、KPCなし車両との差が出てしまうことまで考慮に入れいてるようです。

とにもかくにも、“軽さ”って素晴らしい! だって「S」も「990S」も、トルセンLSDすら付いてない仕様なんですよ? きちんとリアタイヤが地面に接地していれば、LSDがなくても気持ちよく走れる。車体が軽ければ、しなやかな足周りでいいわけです。

  • 「S」グレードがベースとなるインテリアは、センターディスプレイなしの簡素な仕様。でも、軽さのためならナビなんてスマホでいい。こうなりゃドアの内張も簡素化して、センターコンソールもカーペット仕様にして、とことん軽さを追求しちゃえ。それってつまり、「M2 1028」ですよね。

でもやっぱり、この軽さを保ったまま、もっとピュアなロードスターも欲しいなぁ。
なんて考えていたらワタクシ、あの「M2 1028」を思い出しました。
そうだよ、マツダには「M2」というヘリテージがあるじゃないか!
ガソリンエンジンの転換期が目前に迫っていると言われている今。ロードスターがあとどれくらいこのままの姿でいられるのか。モーターを搭載したら100kgの重量増は免れないだろうとのことでしたし、そもそも今の車体にバッテリーを積むスペースはないでしょう。そしたらモデルチェンジですよ。
だったらこのND型で、最後にもう一度伝説を作って欲しいなぁ。

(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[GAZOO編集部]

あわせて読みたい!『クルマは最高のトモダチ!』山田弘樹コラム

MORIZO on the Road