『クルマは最高のトモダチ』PHEVで830馬力!? でもフェラーリは、やっぱりフェラーリ!…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
久しぶりに、フェラーリを運転しました。
しかも大雨が降る日に、830馬力もあるヤツを(汗。
試乗したのは、「Ferrari 296GTB」。
フェラーリの名前は、たとえば「エンツォ」のようなペットネームもあるけれど、多くはエンジンに由来します。
それで言うとこのクルマは、「2.9リッターのV型6気筒エンジンを搭載するGTカー。形はベルリネッタ(クーペ)だよ」ということになります。
そう、V型6気筒を搭載したフェラーリなんですね。
今までのピッコロ・フェラーリ(小さなフェラーリ)はV8エンジン搭載が基本でしたから、「ディーノの再来か!?」なんて騒がれました。
しかし実態は、違います。まずそのお値段(3710万円)が、マジです。決してV8モデルの下に、ディフュージョンモデルを造ったわけではありません。
しかも2気筒減らしたスペースには、ハイブリッドシステムが搭載されます。そして床下には、7.45kWhの小さなバッテリーも。
フェラーリが最初にモーターを搭載したのは「ラ・フェラーリ」(2013年)ですから、電動化の歴史としてはもう10年。
最新版の296GTBはとうとう、おうちで充電可能なPHEVとなりました。
フェラーリが電動化? そんなの楽しいの? ちゃんと速いの? ステキなの?
はい、とってもステキでしたよぉ。
ただ試乗は、恐っそろしく緊張しました。
当日は台風が来る直前で、フェラーリに乗るには抜群にバッドなコンディション。某雑誌の編集部員氏に「別の日にしない?」と提案したけれど、スケジュール的にどうしても、この日しかないという状況だったのです。
雨がしとしと。ときにザーザー降るコンディションで、830PS/720Nm(!!!!!)のシステム出力を、後輪だけで走らせる。
いやいやプラグインハイブリッドでそのパワー、おかしくないか?
しかもレイアウトは、ミッドシップ。そして価格は……何度も言うけど3710万円!
もう、走り出しは涙目ですよ。初めて乗るレーシングカーを走らせるときのような気持ちで臨みましたよ。
そんなシチュエーションだったせいもあって、296GTBのギャップには、完全にヤラれました。
システム出力は830PSですが、エンジン単体の出力は663PS。
過給器のレイアウトは、幅広い120度バンクの真ん中に各気筒用タービンを配置する“ホットV”形式。その後ろ(画面の手前)には、オレンジ色のハイブリッド用配線が。パワーユニットのフィーリングは電気のアシストもあってか、ピュアガソリンのV8ユニットに比べてとてもマイルドな印象でした。でもeマネッティを解放させたら、そんなこと言ってられないんだろうなぁ。
まずこのエンジンが、素晴らしく滑らかなんです。120度のバンク角が織りなす行程は、完全等間隔爆発。各気筒が順序よく爆発して排気干渉が起こらないから、サウンドが超クリーミーなのです。
パワーの出方もリニアで、右足のアクセル開度に忠実。獰猛なエンジンというより、すごくいい機械を操っている感じがするんです。
だったらなんで、みんな120度バンクにしないの?
それには“幅”が必要なんですね。たとえばこれをフロントエンジン車に搭載したら、ものすごく全幅が広くなってしまう。エンジンの外側にサスペンションアームを取り付けて、なおかつハンドルが切れるようにするとなると、巨大なクルマになっちゃいます。
理屈はリアでも同じですが、タイヤを操舵する必要がない分だけ幅は抑えられる。そして見た目もグラマーになります。
ちなみにV8エンジンの方が、等爆にするためのバンク角は90度と小さくできます。それでもフェラーリは、未来を模索するべく2気筒減らしたV6でやりたかったんでしょうね。
モニターの視認性を優先してステアリングは大きめ。これを切り込んでもシフト操作ができるように、ステアリングシャフトに取り付けられたパドルもすごく長いです。
そんな296GTBを街中で走らせていると、それまで“ウヴォ~ッ”と低く唸っていたツインターボエンジンが、突然“ストン”と落ちました。
車内は“シーン”。エンストッ!?
それは「ハイブリッドモード」の制御でした。低速の低負荷領域で、エンジンを止めてモーター駆動したんですね。
しかしあのフェラーリが、無音で走るなんて。
仕事がらEVやPHEVには沢山乗りますが、フェラーリがモーター走行すると違和感を通り超して、なんだかワクワクしました。近い未来を見ているような気持ちになります。
撮影が終わってガソリンスタンドを出るときも、モーターでスルスルと動く様子にスタッフのみなさん驚きまくってました。
これなら自宅からクルマを出すときや、帰るときもストレスフリーだろうなぁ。
EV走行の航続可能距離はたったの25kmですが、要は使い方です。そしてハイブリッドモードであれば、街中でも結構EV走行して静かに走ってくれます。
モニターは走行用のパラメーターだけじゃなく、全面ナビ画面にすることも可能。シャシーはステアリング右側のダイヤルで選択。左側の走行モードではハイブリッド/EVドライブも選べるようになっていました。
さて肝心なその走りですが、全幅以外はとても扱いやすかった。
もちろん本気だされちゃったら、わかりません。今回はオンロード試乗なので、そのポテンシャルはまったく引き出せず!
シャシーの制御モードも「Race」まで。ハイブリッド用に開発された「eマネッティーノ」で「Qualify」を選べば、蓄電せずに電池を使い切って、830馬力を解放できるようですが(笑)、危険がアブないので止めておきました。まさにこれ、F1の予選ですよね。
それでも、ハンドリングはみごとでした。
ステアリングの応答性はシャープ過ぎず、決してダルではなく。リアのグリップ感もきちんとあって、不穏な感じがしない。
ミドシップのフェラーリには少しビビッドな味付けで乗り手を喜ばせる印象があったのですが、296GTBはとても真面目な感じ。運転に集中するほどに、細部の動きが体に伝わってきて、一体感が増して行きます。速度が上がるほどにダウンフォースも増えて、路面に張り付くんだろうなぁ。
このシャシーでアクセルを踏み抜いたら、頭が真っ白になっちゃうんだろうなぁ!
そんな予感がしました。
フェラーリはその値段やカタチや馬力ばかりが話題になりますが、ボクが素晴らしいと思うのは“そこ”なんです。
たとえプラグインハイブリッドになっても、スポーツカーにとって大切な部分って何なのかを、絶対忘れない感じ。
そういうところに価値があるんだよなぁ! と改めて感じました。
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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