『クルマはトモダチ』憧れのスーパーセヴン…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
さっそくですがみなさん、スーパーセヴンって知ってますか?
マツダのRX-7じゃなくて、ケータハムのスーパーセヴン。
それはイギリスのケータハムカーズが作っている、とってもシンプルな2シーターのオープンスポーツカーです。
というか、なーんも付いてません(笑)。
そしてこのセヴンこそ、私が若いころ、欲しくて欲しくてたまらないスポーツカーだったのでした。
その理由はまさに、このクルマには余計なものが、なーんにも付いていなかったからなんです。パワーじゃなくて“軽さ”で勝負するストイックな感じに、完全にノックアウトされたんですね。
何度かお話していますが私が免許を取った頃は、国産チューニングカー全盛期。
メーカーの自主規制で280馬力に抑えられていたそのパワーは、マフラー交換とCPUチューンで簡単に400馬力近くまで跳ね上がり、「GT-Rならタービン交換で600馬力狙えるぜ。でも壊さないように、450馬力程度に抑えた方がいいらしいよ」なんて会話が、クルマ好きの間ではまことしやかに交わされていました。
当時超が付くほどの貧乏学生だった私にとって、そんなクルマたちは夢のまた夢。大学の教室で同級生たちが、「Option」誌をペラペラめくりながら、GT-RやフェアレディZ、シルビアのチューニング話で盛り上がる様子は、正直うらやましかった。
本当はテレ東の「モーターランド2」で、グループAレポートの放映日にはかぶりついて観ていたのに、「誰が乗っても速いGT-Rなんて、興味ないよ」って、スネてました(笑)。
そんなときに出会ったのが、スーパーセヴンだったんです。
たしかバイト先の編集部に献本されてた、カーマガジンだったかなぁ? ブリティッシュグリーンのサイクルフェンダーを付けたセヴンを見て、最初は「なんだこの、ルパンみたいなクルマ?」(※)って思いました。
でも記事を読むと、これがめっぽう速いという。
エンジンは1700ccの自然吸気なのに、車重が600kgを切る軽さだから、加速は現代のスポーツカーに負けないどころか、ワインディングなら敵なし! なんて書いてあるわけです。
もっともそのエンジンはヘッドカバーが黄色でしたから、170PSのフォード・コスワースBDRでしょう。リッター100馬力のNAエンジンなんて、当時はレーシングカーユニットですから、速くて当たり前なんですけどね(笑)。
とにもかくにもこれには、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けました。パワーじゃなくて、パワー・ウェイト・レシオ。
軽ければ軽いほどクルマって、速くなるのかッ!! って。
その日から、スーパーセヴンは私のヒーローになりました。カーマガやカーグラは高いから引き続き編集部で読んで(笑)、毎月ティーポを買って、GTロマンにドハマりして、知識を得ました。
しかしいくらセヴンに詳しくなっても、どうにもならないことがひとつあったんですよね。当時のセヴンは新車も中古車も、ものすごく高かった。
詳しく覚えていないけど、一番ベーシックな1700SSでも500万円以上はしたと思います。そしてこれがBDRなんかになると、700万円とか800万円なんて、めまいがするような価格だったんです。
おーい、ちっとも貧乏人の味方じゃないじゃーん!
それでもセヴンを嫌いにならなかったのは、そのストイックな姿勢と、知る人ぞ知る感じが、カッコよかったんでしょうね。好きなクルマを尋ねられたとき、「スーパーセヴン」なんて答えるのが、ちょっと誇らしかった。
そんな私にも、セヴンが買えるかも! というチャンスはあったんです。ちょうどこの頃、マルカツという会社が「バーキン・セヴン」というセヴン系の亜種を扱っていました。
その歴史については色々あるので省きますが、ともかく価格が安かった。たしか260万円くらいで販売していた……はず。
もうね、私「これしかねー!」って思いました。欲しくて欲しくて、世田谷の環八にあった、マルカツに通いましたよ。
そしてある日、お店の方がバーキン・セヴンを試乗させてくれたんですね。いっつも外からクルマを眺めている若者が、不憫に思えたのかも知れません(笑)。
コクピットは赤いトリミングとウッドステアリングで、ちょっとクラシカルにお粧(めか)しをしていました。でもセヴンはね、飽きたらスパルタンなレーシングトリムにもできるし、遊び方は無限大です。シフトは超ショートストロークで、縦置きミッションと直結するから操作感もダイレクト。
初めて乗ったセヴンは、超ワイルドでした。
エンジン掛けたら、振動でパーツが取れちゃうんじゃないかと思うほど、あっちこっちブルンブルン。アクセル踏むとワンテンポ遅れてエンジンが“ガホッ!”っと吠えて、フロントスクリーンあるのに、思い切り風が巻き込んで。
街中を普通に走っただけなのに、幸せでした。もう速いとかそういうのが、どうでもよくなるくらいワクワクした。
普通のクルマが排除しようとする振動や乗りにくさが、全て魅力的に思えたんです。いわば1600ccのバイクみたいなものですからね。
でも残念ながら、バーキン・セヴンを買うことはできませんでした。
それでもやっぱりまだ学生には高くて、手が出なかったんです。
奇しくもそれから私はティーポ編集部員になって、数々のスーパーセヴンに触れることができました。1700SSから始まって、超軽量モデルの「R500 R」にも乗ることができた。
しかしその頃は、もうちょっと安価なアルファ・ロメオに夢中になっていて、セヴンからは少し遠ざかってしまった。というか編集部でもセヴンは人気でしたから、いつも先輩たちが担当してました(笑)。
中古車サイトを見ると、また少し高くなってきているようですが、あの頃のセヴンが結構現実的な価格でポロポロと出ています。
1700SSが1万kmで315万円とか、1600BDRが4.8万kmで400万円とか見ると、ドキドキします。
いまでもスーパーセヴンは、私の憧れのスポーツカーなのであります。
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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