『クルマは最高のトモダチ』僕とロードスターの恋の物語…山田弘樹連載コラム
- マツダR&Dで歴代ロードスターを試乗したときに、わが赤パン号と記念撮影。NCが隠れてしまって……ごめん!
突然ですがみなさんは、今まで乗ったクルマの中で「コイツはオレの宝物だった!」と言えるクルマってありますか?
もちろん自分で買ったクルマはすべて愛車ですが、「このクルマだけは特別だった!」と思える一台。
ボクの場合は、それがユーノス時代のロードスターでした。
えっ、赤パン(ハチロク)じゃないの? ハチロクはウチのワンコというかもう、家族の一員のような感覚で。まるで恋人みたいに熱愛しちゃったのは、ロードスターだったんですよね。
ロードスターを手に入れた経緯は、ちょっとややこしいです(笑)。当時まだ大学生だったボクは、周りの友達に感化されて、まず出たばかりのアンフィニRX-7(FD3S・タイプS)を手に入れます。
初めての新車、もちろん漢(オトコ)のフルローン!
この話はちょくちょくメディアで書いているんですが、残念なことにセブンは、購入後たったの2ヶ月で「東京全損第一号」という不名誉なキャッチフレーズまでいただいて廃車となりました(号泣)。もう完全に、若気の至り。今見ても究極的に美しいセブンを、アッという間に壊してしまったことは、長い間ボクのトラウマでした。
幸い体は軽いむち打ちで済み、セブンのローンは車両保険で相殺できたのですが、それはそれはもう、親には大目玉を食らいましたよ。
そして、「お前はクルマ乗っちゃダメ!」と、丸2年間の謹慎を言い渡されることになってしまったんです。なんで2年間だったのかはまったく不明なんですが(笑)、きっとコイツには1年じゃ甘いと思ったんでしょうね。
今の若い子たちには「意味わかんない」かもしれませんが、クルマだけが全てだった自分にとって、この謹慎は何よりこたえました。
ダメといわれるほどに加速するその思い(笑)。寝ても覚めてもクルマ、クルマで、見るのはクルマの雑誌と、「ベストモータリング」や「首都高トライアル」といったビデオばかり。
しかしこの期間があったからこそ、ボクはクルマに詳しくなり、それが今につながっています。以前にもコラムで書きましたが、ハングリーなほど知識は増える。ゲーセンに行ったらリッジレーサーとセガラリーは必ずやる(笑)。
そして遂に2年の月日が流れ……。
ボクが選んだクルマはロードスターのSスペシャルでした。
最もベーシックなモデルで170万円。
足まわりを買える余裕はなさそうだから、ボクは最初からビルシュタインダンパーとBBSホイールが付いていたSスペ(207.5万円)を選んだのです。
- いろいろ探してみたのですが、ボクが乗っていたSスペの写真は結局一枚も見つからず。当時はまだ若者が携帯なんて持てない時代で、写真を撮るといっても「写ルンです」くらいだったものなぁ。当然そんな贅沢品を買う余裕もなく、全てはガソリン代とローンに消えました(笑)。
免許取って数年の若造が立て続けに新車に乗ること自体、今では考えられないことですが、90年代前半はそういう時代でした。だってまたしてもローンが、通っちゃったんですから。日本経済、ほんと復活して欲しいなぁ!
がんばれば手が届く価格で、しかも小さなFR。おまけにオープンカー!
このグレートなパッケージングは、見栄っ張りだったヤマダ青年にはぴったりでした。「スポーツカーは馬力じゃないんだよね」
「こういう小排気量FRで腕を磨いて、うまくなってからセブンやGT-Rに乗るべきだったんだよ」
なんて友達に言い訳しながら、自分を肯定化していた気がします。かなり、痛い(笑)。
自動車雑誌「NAVI」をわけのわからないままに読んで、大人ぶっていたあの頃。思い出すだけで恥ずかしいけれど、今よりも熱くていい時代でした。甘酸っぱーい!
- ロードスターのおかげでクラシックカーにも興味が湧き、「GT roman」を読みあさって挙げ句の果てにティーポ編集部員となったわたし。写真はそのロードスターがリスペクトしたといわれるロータス・エラン。ノーズがフレームアウトしていてこちらもごめんなさい!
でもロードスターがすごいのは、ここから。
この小さなスポーツカーは、そんなクチばっかでヘッポコなボクの目を、バッチリ覚ましてくれたんです。
だってただ街中を普通に運転するだけで、笑っちゃうほど楽しいんですから。もうリクツなんて、どうでもいい感じ。そして幌を開け放てば、めんどくさいことが何もかも、後ろに吹っ飛んでっちゃう。
ボクは若い頃バイクに乗っていなかったので、こういう感覚を知らなかったんです。だからこの原始的で、直接的な愉しさには、完全にノックアウトされました。
現実的な意味でもガソリン代の安さには助けられましたよ。
満タンにしても4000円でオツリが来て、飽きるまで走ってもセブンみたいに減らない! もちろん燃料はレギュラー!!
それでもガソリンスタンドでは、「1000円分お願いしまーす」が定番でしたけど。
雑誌ではレブスピードやティーポのロングランレポートが人気で、ショップも沢山のパーツを開発し、みんながこの小さなスポーツカーを盛り上げていました。
マツダの実験工房「M2」からはM2 1001が登場して、これがチョーかっこ良かった! クラシックカーの“ク”の字も知らなかったボクの目に、1001のスタイルはかえって新鮮に映りました。
あの革で巻かれたごついロールバーに影響されて、マツダスピードのロールバー組んだなぁ。カーペットとシフトリングだけのシンプルな内装に憧れて、センターコンソールを取ってみたけど、カッコ悪かったなぁ!
- M2 1001の写真はなかったのですが、なんと当時M2で発行していた「M2 VOICE」が出てきました。クーペモデルである1008や、クラブスポーツである1028の開発ストーリーをはじめ、様々なクルマの愉しさを文化的に取り上げるアカデミックな小冊子でした。懐かしい!!
若さも手伝い、走っているときは必ずオープン。小雨くらいなら間違いなくオープン。学校行くにもロードスター。実家に帰るにもロードスター。デートに行くにもロードスター。もうずーっとずーっと、ロードスターに乗っていたいと思ってました。もう自分はオープンカー以外乗れない! と、本気で思ってました。
ある日学校から帰ってくると、駐車場にあるロードスターがやけにカッコ良く見えたことがありました。
あれっ、オレのクルマ、こんなに決まってたっけ?
だんだんと近づいて気づいたのは、車高の低さでした。ビルシュタインの足まわり、こんなだったっけ?それにしても、低すぎね?
アイスピックでタイヤを刺されていたんですね~。それも4本とも、ペッチャンコッ!
カツカツで乗ってんだから、勘弁してよぉ~。
きっと生意気に見えたんでしょうねぇ。友達に聞くと10円パンチはもちろん「幌が破かれた」とか、「(ネジ式の)アンテナが折られた」なんて話がぽろぽろ出てきました。そう、ロードスターに乗ると自然と友達ができたのも良い思い出です。
それでもめげずにボクは、バイト代をはたいてダンロップ「Formula W1」を買いました。通称“ダブワン”。これも懐かしい~!
当時ダブワン買うとサーキットを走れるキャンペーンをやっていて、生まれて初めてスポーツランド山梨を走りました。講師は憧れの中谷明彦さんで、ダッシュしながらサインをもらいに行ったっけなぁ!今現場でご一緒できているなんて、ウソみたい。
- ベストモータリングを熱愛していたボクにとって、中谷明彦さんは憧れの存在。そんな中谷さんと一緒の現場で仕事ができるようになるなんて、今でも本当に信じられない。
そんな沢山の思い出を作ってくれたロードスターは、間違いなくボクの「お宝」でした。ではそのロードスターが小排気量FRのキャラクターを活かして、ボクの運転テクニックを磨いてくれたのか?というと、そんなことは全くありませんでした。
……あれっ、どうして!?
しかも溺愛するロードスターを、ボクは手放すことになってしまうのです。
そんな顛末は、次号にて……。
- 写真を掘り出していたら出てきた貴重なカット。これはマツダE&TでNBロードスターをベースに作られた「ロードスタークーペ」のレース仕様車。ロードスターなのにクーペって、なんだか変ではあるけれど、これがとってもカッコ良くて運動性能の高いクルマだったんです。そんなお話もいつかしたいですねぇ。
(写真/テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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