『クルマは最高のトモダチ』楽しくて欲しくて悶絶! アルピーヌA110…山田弘樹連載コラム
先日筑波サーキットでは、アルピーヌA110のハイパワーバージョン(252PS→292PS)となるA110Sの試乗会が行われました。
前回はルノーのワークス部門である、ルノー・スポールのお話をしました。
なぜ彼らがモータージャーナリストやメディアから、いつも高い評価を得ているのか?
それは彼らの姿勢に、「走らせて楽しいクルマをつくろう!」という気持ちがあふれ出しているからなのです!というお話でしたね。
そして今回は、ルノー・スポールの最も象徴的なスポーツカーである、アルピーヌA110について少しお話してみたいと思います。
そもそもアルピーヌは、フランスのレーシングドライバーであるジャン・レデレによって設立された会社でした。
彼はルノーベースで数々のチューニングカーやレーシングカーをつくり、これが巷では好評を博して、レースやラリーでは数々の優秀な成績を残しました。
そんなアルピーヌ社が、ルノーR8のコンポーネントを使ってつくったスポーツカーが、初代アルピーヌA110だったのです。
- これが初代A110。ルノーR8のコンポーネンツを使ってつくられた小さなスポーツカー
アルプスの山々を駆け巡るスポーツカーというイメージに相応しく、A110は数々の国際ラリーで大活躍。
そして1973年に初開催された世界ラリー選手権(WRC)では、モデル末期ながらもグループ4仕様の改造を受け、13戦中6勝を上げて初代マニファクチャラーズチャンピオンに輝いたんです。
さてそんなご先祖さまのイメージが強烈だったため、ボクは最初2代目A110の見た目に少し馴染めませんでした。
だって……。
ひとりのクルマ好きとして正直に言うと、オリジナルよりも随分大きいと感じたし、新しいA110の顔って……ちょっとウツボみたい。
みなさんカーグラフィックTVのオープニングは見たことはありますか? 松任谷正隆さんのテーマ曲をバックにA110は、とっても可愛かった。
そして追走していたフェラーリ328よりも庶民のハートをつかんだと思うんですよ。
「なっ、なんだ、この小さいのは!?」
当時はネット環境なんてないですから、色々調べました。そして先輩に教わったり、ティーポやカーグラフィック、カーマガジン誌を読んだりするうちに、そのスポーツカーが由緒正しいヒストリーを持つ名車だと理解して行ったのです。
その姿を初めて見たのはティーポ編集部に入ってからですが、実物のA110は小さいながらもどこか品のある雰囲気が印象的でした。
だからこそ復刻版は、その愛らしくも気高いディテールまで、忠実に再現して欲しかったんです。
- 初代と2代目A110のツーショット
現代解釈されたA110は、少し大きくなって(全長4205mm)、横置きミドシップとして生まれ変わりました。
だがしかーし!
甦ったアルピーヌA110は、そんなボクの小難しいエンスージアズムを、走りで吹き飛ばしてしまったんです。
そう!新生アルピーヌA110は、復刻版じゃなかったんですよ。何より運転して楽しい、近代的なライトウェイトスポーツカーだったんです。
ボクが新型A110で何よりも感心するのは、操縦性の素晴らしさ。そしてその要となっているのが、ミッドシップというレイアウトです。
とはいえこれを市販車として成立させるのは、実はとっても難しいことなんです。
ミッドシップはスポーツカーをつくる上で最善のレイアウトだとされています。
その理想的なレイアウトは、エンジンを縦置きに搭載して(ドライサンプが好ましい)、トランスミッションを並列させること。
こうすることで車体中央に一番の重量物であるエンジンが収まる上に、その重心をとても低くすることができるのです。
走るためだけにつくられるレーシングカーや、非日常性に重きを置くスポーツカーは、みんなこの縦置きミッドシップ・レイアウトを採っています。
フォーミュラカーで言えば頂点のF1はもちろん、一番小さなスーパーFJでさえ、縦置きミドシップです。
そしてフェラーリやマクラーレン、アウディやランボルギーニといったスーパースポーツたちが本物として認められているのも、根底にはこの方式を採用しているからという理由があるとボクは思います。
- 現代の基準で見れば十分に小さな現行A110。ドアの厚みやタイヤの大きさ、ヘッドライトの小型化などが現代的なスタイルをつくり出していますね
対してアルピーヌA110は、メガーヌRSのFFユニットをそのまま流用しています。こうすることでトランスミッションやディファレンシャル、ドライブシャフトがエンジンの下方に位置することとなり、その重心はどうしても高くなってしまうのです。
また後輪車軸に対してエンジンが乗っかる形になってしまうため、完全な中央配置と言い切れない部分もあります。
では、どうして操縦性が難しくなってしまうのに、A110は横置きエンジンを採用するのでしょう?
そこはまず、コストの問題があります。
特にルノーは縦置きトランスミッションを自社で持っていませんし、逆にFF車のコンポーネンツはメガーヌRSからそのまま流用できます。ちなみに初代A110は、ルノーR8のコンポーネンツを使ったRR(リアエンジン・リアドライブ)でした。
もうひとつは、ユーティリティの問題があります。
エンジンを縦置きに搭載するだけでも全長が長くなるのに、さらにトランスミッションを後につなげたら。ラゲッジルームを用意するのがとっても難しくなりますよね?
初代NSXがエンジンを縦置きしなかったのも、こうした理由からでしょう。
参考までにA110も小さいけれど、フロントに100リッター、リアには90リッターのトランクを設けています。
話を走りに戻しましょう。
こうして横置きミドシップを採用したA110はしかし、スポーツカー好きなら誰が乗ってもわかるほど楽しいハンドリングを実現しました。
その詳細は沢山の記事で賞賛されている通りですが、わかりやすく言えばルノー・スポールのセッティング能力の高さがあってこそ。
ボディの軽さ(最もベーシックなモデル「ピュア」で1100kg)はクルマの慣性を小さくし、しなやかなサスペンションは高い重心がもたらすクルマの動きを、穏やかにしてくれます。
とはいえフロントにエンジンを積まないミドシップですから、切れ味は抜群。だから新型A110に乗ると、運転が楽しいんです。なおかつ乗り心地もいい!
こうした横置きミドシップの手なづけ方は、ロータス・エリーゼが一流です。
しかしアルピーヌA110はそこに適度な室内の広さや現代的な内装を含め、高い日常性をも備えました。
- 現行A110のインテリア。マシンの性能やラップタイムを表示できるインフォテインメント機能をナビ画面に備えるなど、格段に現代化されています
エアコンが装着されていて、運転すれば抜群に楽しいA110はある意味、英雄である初代をも超えた、頑張れば手が届く……いや届きそうな?うーん、欲しいなぁー! と夢見て悶絶できる庶民のスーパーカーになったのだと思います。
その価格はベースモデルのピュアでさえ800万円を超えますが、ポルシェ718ケイマン(692万5296円)とケイマンS(885万926円)の間という価格も絶妙。
ちなみに昨年の日本における販売実績は349台で、今年はそれを超える勢いだと言います。
とはいえ2年間で700台程度の台数だと考えると、希少性も抜群?
A110は手に入れたオーナーにとって、小さな宝石のような存在だと言えるんじゃないでしょうか。
走りが良いとその姿も、カッコ良く見えてくるもの。
今ではボクもA110というスポーツカーが、大好きです。
- 昨年の夏初めて見たA110は、最初ちょっとアグリーに感じました。真似するとこんな感じ!? でも走りがよいとカッコ良く見えてくるからクルマって不思議!後ろにいるのは「MOTA」のトクダ編集長です
次回からは、第2、第4火曜日に更新していきますので、引き続きお楽しみに!
(写真/テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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