『クルマは最高のトモダチ』ピックアップを取る理由に迫る!…山田弘樹連載コラム
というわけで(どういうわけで!?)、今年3回目となる筑波サーキットに行ってきました。今回は自動車ライターである大谷達也さんのコーチングで、久しぶりのコース2000です。
その詳細はGQ JAPANの「CARS」コーナーでレポートされるようなので、よかったらチェックしてみて下さい。あのお洒落webであるGQに、ハチロクが登場するの!?
……事件です(笑)。
さてボクがこのコラムに書くのは、ポテンザ「RE71-RS」の続報です。
実を言うとわが赤パン、これまで筑波コース2000を、一度も走らせたことがありません。というか、GAZOO動画の撮影で袖ケ浦フォレストレースウェイを走らせた以外、大きなコースで走ったことは一度もないんです。
これでも一応、箱入り娘でして。
コース1000に比べ平均荷重が大きいコース2000で、大丈夫かなぁ…。パワーの割に足周り柔らかすぎて、ドタバタしないかしら?
まぁ経験上、平気なことはわかっているんです。もっと足周りが柔らかい市販車で、何度もここを走っていますから。
でも自分のクルマとなると、ちょこっと心配になるんだから、オーナー心理って面白いですね。
うー、カッコいい! こんなに素晴らしい走りとスナップを撮ってくれたのは、イケメンでバイクの達人でもある安井宏充カメラマン。なんか写真がすてき良すぎて、赤パンに惚れ直しちゃいましたよ。今回はGQにもハチロクの記事を書いたので、そちらもお楽しみに!
そして肝心なRE-71RSはというと。
これがばっちりでした!
いつものごとく時間がなくて、タイヤのピックアップは、フロント2本を取ったきり。つまり、リアはピックアップだらけのまんまでコース2000を1本(20分間)走ったのですが、タイヤのフィーリングがすこぶる良かったのです。
一度熱が入ってしまったからでしょう、あの新品おろしたてのときのような、圧倒的な感じはなかったのですが、それでも相変わらずRE-71RSはグリップが高かった。そして滑り出しも穏やでした。
さらに言うとケース剛性が高すぎないから、赤パンのスプリングレート(フロント7kgーmm/リア5.5kgーmm)でもタイヤが反発せず、しなやかに追従してくれます。
スプリングレートをどんどん上げてクルマを速くして行きたいなら、Sタイヤのような剛性感が必要かもしれないけれど、マイカーを普段使いする派にとってこの剛性バランスは嬉しいですね。
「ストリート最強のスポーツラジアル」とは、こういうことなんだな。
さらに発見だったのは、今回走らせてピックアップが、ほとんど着かなかったことでした。
これを自分なりに分析すると、まず前述した通り、タイヤは既に一度熱が入って硬くなった状態だったから、ゴムが付着しにくくなったのだと思います。
そしてもうひとつは、コース2000の特性でしょう。コーナーではコース1000よりも負荷が大きくかかるから、大きなピックアップは走っているうちに取れてしまうのだと思います。
その証拠にガレージに帰ってタイヤをクリーニングしてみると、一番荷重が大きくかかっているショルダーブロックの面構えが、とてもきれいでした。
そして中央リブからイン側ショルダーにかけて、うっすらとゴムが積層していた。タイヤかすが着くというよりは、ゴムがバターのように塗り重ねられた感じです。
そしてこれを、薄暗くなったガレージの外で、ひとり蚊に刺されながら、スクレーパーでコツコツ取り除くワケです。
大体4本で、1時間半くらいかなぁ? 作業しているとコシミズモータースポーツの鶴見さんがやって来て、「休日に来て、ずーっとタイヤかす取ってる人もいるよ」なんて言ってました。みんな次の走行に向けて、きちんと準備をしているんですね。
ところでタイヤかすを取り除く作業って、まるで禅修行のようです(笑)。
タイヤの表面をじーっと見つめていると、その減り方やサーフェスの違いが、なんとなくわかって来ます。少し立ち止まっては、今日の走りをイメージしたり。追い込みすぎて、トレッドまで切りそうになったり(汗。
自分をリセットするにもいい時間だなぁ…と思いました。
使い込んで行くとまた違う顔を見せてくれたPOTENZA RE-71RS。コース2000を走らせると細かいピックアップは取れて、今度はうっすらとゴムの層が着いた。これを電動スクレーパーでコツコツ取って、次回のためにきれいにしてから家に帰りました(笑)。
そしてふと、思ったわけです。
実際プロのメカニックさんたちから、なんでピックアップを取るのか話を聞いてみたいな! って。
もちろんそれは、ユーズドタイヤを再び使うためです。余計なゴミを取り去って、タイヤをきれいにしておくためだとわかっているのですが、もっと他にも理由があるんじゃないかしら? と思ったんです。
せっかくピックアップが着くような本格タイヤを使っているんだから、プロから聞いてみよう!(笑)。
というわけでスーパーGT 第5戦SUGOラウンドに行ったとき、ちょうど予選が終わってタイヤをケアしていたBMW Teamスタディのスタッフから直接聞いてみました。
いわくタイヤのピックアップを取り去る理由は、とってもシンプルなものでした。
「今スーパーGTは、約90分という短い時間でマシンのセットを決めなくてはいけません。だからこれを効率的に行うためにも、タイヤをきれいにするんです」
「たとえば公式練習走行をガソリンを50リッターでスタートしたら、ピットインした後は同じところまでこれを補充します。そうしないと次にセッティングを変えたとき、条件が変わってしまいますよね?」
条件を揃えないと、セットの変更で走りがどう変わったのかが、純粋にはわからない。例えばアンダーステアが出たとき、車高とダンパーと内圧と……一変にやってしまうと、どれが原因なのかわからなくなるのと同じこと?
「そうですね。タイヤもそれと同じで、毎回表面をきれいにして、走り出しの条件を揃えるんですよ。もちろんゴムの量は足せないけれど、どれだけ減ったかはきちんと測っておきます」
なるほどー! ピックアップを取るのはタイムを落とさないためだとばかり思っていたけれど、セッティングを進めて行くときにも必要なんですね。
「でも(GTの場合はゴムが極端に柔らかいので)全てのかすを取りのぞけるわけではありません。極端に言うと、“コンタクトパッチ”の部分だけきれいにしてあげればいいんです」
ほぉ! いわゆる“はがき一枚分”と言われる路面との接地面を、確保して上げればいいわけですな。もしかしてボクがサボってイン側ブロックのタイヤかす取らなかったの、見てました?
というわけで、今回は「ピックアップの取り方」についてお話してみました。かなりマニアックな内容でしたが、虎の子のハイグリップタイヤを上手に使って、ベストなセッティングを出すためにも、役立ててもらえれば嬉しいです。
GQ JAPAN 初代“ハチロク”の魅力とはなにか?
Vol.1 モータージャーナリスト・大谷達也編
Vol.2 モータージャーナリスト・山田弘樹編
(テキスト:山田弘樹、写真提供:安井宏充)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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