『クルマは最高のトモダチ』GRヤリス試乗記後編。妄想がもう止まりません! …山田弘樹連載コラム

これはGRパーツ装着車。標準車よりもさらにその空力性能を高めているとのことでした。ボディカラーの色からして思わずオーリスに採用された指揮官用アンテナを付けたくなります(笑)。その速さはノーマルヤリスの3倍以上!?
これはGRパーツ装着車。標準車よりもさらにその空力性能を高めているとのことでした。ボディカラーの色からして思わずオーリスに採用された指揮官用アンテナを付けたくなります(笑)。その速さはノーマルヤリスの3倍以上!?

前回のコラムで、ひとことコメントくれた方、とっても嬉しかった!
ざっくり言うとボクも、同じ気持ちです。トラックモード(50:50)は走りを極めるセッティングで、スポーツモード(30:70)を、ドライビング・プレジャーモードにしてくれたら最高なのになぁ! というのがボクのGRヤリスにおける第一印象でした。

WRCホモロゲマシンで、4輪ドリフト。
……萌える(笑)。できる、できないは別にして、クルマバカにとってそれは、究極の夢ですよねっ。

そしてGC8(初代インプレッサ)は、確かにこうした走りが楽しめました。
さらにランエボはAYCを使って、一歩進んだ走りを実現してくれました。ステアリングの入力でわざとアンダーステア(コマンド)を出すと、高速コーナーだろうが構わずリアをスーッと流して向きを変えるあの走りを初体験したときは、オシッコ漏らしそうになりました(笑)。

あと日本から撤退してしまったフォードのフォーカスRSも、ドリフトモードを備えているみたいですよね。 あぁ、クルマ好きがファミレスで話をしてるみたいでとっても楽しいなぁ!

そしていま最も身近なヨーモーメントカーは、やっぱりルノー・メガーヌRSですよ。
駆動方式の違いはありますが、そこはひとまず置いといて。メガーヌRSは「4コントロール」という後輪操舵を使い、ターンインでのアンダーステアを打ち消します。その制御はかなりスポーツ寄りで、場合によってはオーバーステアが出るほど。これをドライバーはステアリングとスロットルのバランスでコントロールするわけです。

今でこそルノー・スポールはアルピーヌA110というミドシップスポーツを復活させましたが、そもそも大衆車メーカーにとってFRを作るのは大変なこと。逆にいうとFFしか手持ちのコマがない状況のなかで、クルマをコントロールするたのしさを諦めずに実現してくれたことには、本当に感激しました。
これなら高価なFRを作れなくても、十二分に楽しめるぞ!という感じです。

とはいえGRヤリスにも、実はその可能性が大きく残されているんです。さるエンジニア氏に話を聞くと、前後のトルクを配分する電子制御式多板クラッチはソフト次第でさらに後輪へ駆動力を配分することも可能。
逆に言えばフロントの駆動力を今よりもさらに減らして、ターンインでの回頭性を高めることだってできるというわけです。

市販予定となるダートトライアル用パーツを組み込んだGRヤリスでは、まさに自在な姿勢変化が楽しめました。ここまでとは言わないけれど、ターマックでもう少し自由度があったら最高だなぁ。
市販予定となるダートトライアル用パーツを組み込んだGRヤリスでは、まさに自在な姿勢変化が楽しめました。ここまでとは言わないけれど、ターマックでもう少し自由度があったら最高だなぁ。

そして今後は、競技用オプションとしてこうしたソフトも開発してみたい、と前向きな発言をしていました。
いまは2パターンのモードダイヤルですけど、メルセデス AMG GTやC63みたいな、多段ダイヤル式になったらすごそうだなぁ。

まぁあまりやり過ぎてしまうと、結局機械任せが一番! なんてことになりかねませんが。
GC8のDCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)がそうでしたよね(笑)。
そしてここに、車高調サスペンションやアライメントで調整を加えていけば……。自分好みのリトル・ダイナマイトが作れるんじゃないかな!? と夢が膨らむわけです。

さらに試乗会の当日は、GRパーツ装着車も展示されていました。
ここでボクが「これは!」と思ったのは、張り出しの効いたリップスポイラー。なんでもこのパーツはきちんとダウンフォースを生み出すそうで、前後の空力バランスを整えるために、わざわざガーニーフラップまで後から追加したというのです。

とっ……、いうことはっ! このリップやホイルハウス前のスパッツを着けて、リアのガーニーを取っちゃえば、さらにGRヤリスは、ニュートラルステアに近づくということじゃないですか! なんて怒られそうですけど(笑)。

複雑な形状で張り出したフロントリップスポイラーは、確かにフロントタイヤのグリップを大きく高めそう。タイヤハウス前のスパッツには、タイヤがかき乱した空気とブレーキの熱を、タービュランスで引き抜く効果があるのかな?
複雑な形状で張り出したフロントリップスポイラーは、確かにフロントタイヤのグリップを大きく高めそう。タイヤハウス前のスパッツには、タイヤがかき乱した空気とブレーキの熱を、タービュランスで引き抜く効果があるのかな?
フロントリップで増えたダウンフォースをバランスさせるために付けられたガーニーフラップ。ここに当たった空気が渦(タービュランス)となって、ウイングを延長したのと同程度の効果を発揮します。
フロントリップで増えたダウンフォースをバランスさせるために付けられたガーニーフラップ。ここに当たった空気が渦(タービュランス)となって、ウイングを延長したのと同程度の効果を発揮します。

GRヤリスはエンジンも魅力的でした。
正直なことを言うとその速さはエンジンだけじゃなくてボディの軽さやコンパクトさ、シャシー剛性の高さや4WDのトラクションと、GRヤリスが持つ全ての武器を使って発揮されているのですが、それでも速さの要となるエンジンは、やっぱり魅力的。

まずそのサウンドが、現代のユニットとしてはかなり野太くて、大変貴重な存在です。低回転からフレキシブルに分厚いトルクを発揮する特性ながら、高回転まで谷間なくスカッと回ってくれるのも気持ちいい! とても直列3気筒のエンジンとは思えません。

いや、同じ排気量であれば直列4気筒よりも直列3気筒エンジンの方が1シリンダーあたりの容積も大きくなるので、体感的には1発1発の鼓動が荒々しく、トルキーなのもわかっているんです。むしろ4気筒よりも少しだけ洗練されていない吹け上がりには、魅力さえ感じます。

それでも通常は多くが小型大衆車に使われる直列3気筒エンジンを、ここまで突き詰めたエンジンには触れたことがなかったので、やっぱり驚いてしまうわけです。
軽さを求め、あえて3気筒を選び、272PSものパワーを出してなおかつこれを量産化したトヨタには、恐ろしさすら感じます。

ただこれだけハイパワーだと、耐久性や熱問題は心配。実際ボクがダートを走ったときは各取材陣にシバキ倒された後だったこともあり、水温上昇に伴うリタードが起きていました。

もっとも当日は間に合わなかったようですが、オプションにはインタークーラー・ウォータースプレーもあるようです(こんなところも萌えポイント)し、競技やサーキット走行用にはさらなる高性能インタークーラーが出たりするのかな?

ダートコースに展示されていた「RC」グレード。興味深かったのはロールケージの前足が、天張りとAピラーの内側に通されていたことでした。これならインテリアにバーが回り込むこともないし、見た目もスッキリ。振り返ればゴツいケージが見えるのですが(笑)、それでも競技車輌然とした感じがなくてモータースポーツのメジャー化に貢献しているな! と思いました。

というわけで注目のGRヤリス、その魅力を100%引き出すほど長い時間は乗れなかったのですが、それでも赤パンを手放してまで手に入れるかどうかを

うーん、うーん……、むあー!

っと、悩むに足る“逸材”でありました。

何より小さくて速いというのは、庶民派エンスーの心を鷲づかむキラーコンテンツですよ。
巷ではよく「だってヤリスでしょ!?」(どうしてそんなに高いの!? の意味)と言われますが、ベースがヤリスだからこそ尊いんです。

それは現行WRCのレギュレーションを解釈した結果ではありますが、トヨタが形だけホモロゲーションを満たすのではなく、庶民のアシであるBセグコンパクトカーを本気で作り上げてくれたことがまず感動的。

きっと沢山のチューナーやラリーガレージがこのクルマをベースに、色々な走りの提案をしてくれると思うので、焦る心をちょっと落ち着けて、まずはそれを見てみたい! というのがボクの結論です。

(写真/テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


[ガズー編集部]

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