『クルマはトモダチ』エンジンに惚れた瞬間。BMW M3の原体験…山田弘樹連載コラム
BMWの最新モデル「M4 CLS」に試乗して、思い出したのはM3の原体験。思えばこのクルマで初めて、高性能エンジンの素晴らしさを知りました。というわけで今回は、90年代のE36 M3についてお話します。
みなさんゴキゲンよう!
まだ雪解け間もない2月の初旬に、「BMW M4 CSL」を試乗しました。世界限定、1000台!うち日本には25台が導入されたという、乗り手としては、かなり緊張感の高いモデルです。
これはBMW専門店であり、BMWワークスである「スタディ」が所有する一台で、芸文社の「BMW STYLEBOOK.2023」に、私の執筆を指名してくれました。
Thank you BOB!
というわけでさっそくM4 CSLの印象は……と行きたいところですが、今回は古い「M3」クーペのお話です。
といいますのも、私にとっての原体験は、なんといってもE36型のM3なんですよ。
あれは確か、96年ごろ。当時大学を一年先に卒業して、自動車雑誌の編集制作会社に就職したケイちゃんが、なんと登場したての後期型M3を撮影前に、見せに来てくれたんです。
そしてこれがハチロク少年だった自分には、とんでもなくセンセーショナルな出来事となったのでした。
自然吸気の直列6気筒なんて、それまできちんと見たことも、乗ったこともありません。おまけにそのヘッドには、6連スロットルが付いたんです。
ニュートラルでアクセルを踏み込むと、一瞬グッと空気をタメた後に“ブフワーッ!”と力強く吹け上がるエンジン。カム周りから“ビーン!”と響く、メカニカルノイズ。
吸気音も“ゴシュッ! ゴシュ!”と唸って、「うおぉっ F1のエンジンみたいだ!」って、訳わからないこと叫んだのを、今でも覚えています。
それは初めて、私が「エンジンに惚れた」瞬間でした。
あの頃は何もわからずただただ感動していただけですが、いま改めて振り返っても、後期型S50ユニットはステキです。
排気量を2990ccから3201ccへと増やし、遂にその最高出力は321psを達成。当時のエンジンで、3.2リッターという大きな排気量にも関わらずリッター100馬力超えを実現するのって、すごいことだと思います。
個人的には自然吸気エンジンって、オーバースクエアな方が気持ち良いと思っています。フィーリングとしては後に体験した前期型の3リッターも捨てがたいのですが、もうこれは刷り込みですね。
ちなみに後期型のS50は、φ86.4×91.0mmのロングストロークにも関わらず、上まで力強く回りました。しかもその最高出力は、700rpmも高い、5700rpmで発揮された。おまけにダブルVANOSも付いて、低回転も乗りやすかった。
まさに“バイエルンのエンジン屋さん”が作ったエンジンですよね。
次世代E46のS58ユニットは、さらにその排気量を3246ccまで拡大し、最高出力も343ps/7900rpm(!) まで高められましたが、当時見ていてもこれは、ちょっとやり過ぎな感じがしました。
オイル管理を怠ってブローした車両も何度か見たことあったし(汗)、「もし自分で乗るならM3 Cがいいな」なんて、見果てぬ夢を妄想してましたねぇ。
そして何よりこんな、宝物のようなハイパワーNAエンジンが、ごくフツーな3シリーズボディに搭載されていたのも、私にとってはすごく魅力でした。
ボディには、オーバーフェンダーすらついてない。インテリアも、恐ッそろしくフツー。
でも、そこに萌えたんです。
なぜなら当時M3の車両価格は773万円(6MT)で、「そんなに高いクルマなのに、これだけインテリアが平凡ということは、このエンジンに、お金を掛けたってことだな!」と、勝手に感心したのです(笑)。
でも世間的には、その価値観は真逆だったのだと思います。だからE46世代に入ってM3はよりグラマラスになったし、その後もBMWは、どんどんプレミアム志向になって大成功した。
しかし私は、素朴なクルマが好きなんです。
だから私はすっかり、E36 M3のファンになりました。確かに価格は高いけど誠実で、質実剛健な感じがしました。
ただM3って、サーキットだとちょっとだけ、ターンインのアンダーステアが強いんですよね。
フロントに重たくて長い直6を搭載しながらも、ノーマルで50:50に近い前後重量配分をバランスさせているから、リアシートを取ったりマフラーを軽くしたりするほどに、その傾向が増して行きます。
私はこれをチューニングカーで何度か経験したんですが、当時M3でS耐に出ていたドライバーさんも、同じことを言ってました。
もちろんボンネットなど、フロントを中心に軽量化するのはアリ。バッテリーはもともとトランクにあるようだから、できること少ないのかな?
あと個人的にはタイヤを前後同サイズにするのが、好フィーリングでした。いわゆる“4本通し”ですね。
一般的にはハイパワーFRとしての安全性を保つため、後輪のタイヤ幅を太くする(フロントを狭くするとも言える)のが定石。それをリアと同サイズにすることで、回頭性を高めるわけです。
そしてこれ以上のパワーを狙うようになると、より幅広なボディとさらなる軽量化、そして空力性能が必要になってくる。
つまりそれが現行M4までの歴史であり、その軽量化バージョンであるCSLであり、果てはFIA-GT3マシンとなるわけですね。
そんなこんなで私にとってのBMW M3は、原体験の「M3 C」なんです。
ただそこにはかなりの思い出バイアスが掛かっていますし、「昔が良かった」なんて言うつもりもありません。
だって本気じゃないと、M3は愛し抜けないクルマですから。
確かにこのE36 M3、底値のときは100万円台の個体が沢山ありました。でもそのエンジンをきちんとオーバーホールすると、部品代だけで200万円ほど掛かりました。きっと今は、もっと部品代が高くなっているんじゃないかなぁ。
でもS50系は、それだけ手が掛けられた名機であり、手を掛ける価値があるエンジンです。だから、ちょっと乗って手放すならいざ知らず、長く乗り続けるなら、それなりの覚悟が必要だと私は思うのです。
そんなこんなでE36 M3は、今でもたまにとてつもなく欲しくなるけれど、甘い思い出のままなのであります。
だから今もM3を大切に乗り続けている人は、えらいッ!
いつかそういうオーナーたちがのんびり集まるミーティング、やりたいですね。
というわけで次回は、M4 CSLのお話をします。
お楽しみにッ!
(写真:BMW、山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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