『クルマは最高のトモダチ』縦置きFWDとボブ・サップ!? 2台の魅力的なスバル…山田弘樹連載コラム
11月は、秋のパン祭りならぬ、スバルの水平対向エンジン祭りでした。
新型レヴォーグ、既に様々なメディアで絶賛されていますが、とても気持ちがよいスポーツワゴンですね! でも今回は、そのことではなく。
というのもツインリンクもてぎで開催されたワークス試乗会でボクは、ふたつの魅力的なスバルに乗ることができたのです。
ひとつは、「インプレッサSTI Sport」のFWDモデル!
この走りが、実に良かったんです。ちなみにその詳細は、webCGにも寄稿しているのでこちらもあわせてご覧ください。
そしてここでは、記事で書かなかったことを少し。
それは「縦置きFWDのハンドリングは、良い!」ということです。
かつてはホンダもトライしていましたが、現在縦置きエンジンで前輪を駆動しているメーカーは、スバルとアウディくらいでしょうか。古いところで言うとアルファ・ロメオの「アルファスッド」(1971~89年)がそのハンドリングを絶賛され、シトロエン「DS」(1955~75年)が異彩を放っていました。
対してスバルは「スバル1000」以来、縦置きエンジンのFWD車を販売し続けています。
スバルと言えば、何はなくとも4WD。どうせFWDモデルなんて、プロペラシャフト取った廉価版でしょ?
なんて思っているアナタ、違うんだな!
むしろそれは、いいとこ取りです。
基本4WDと同じ作りのFWD車は、やっぱり4WDと同じように重心が低い。水平対向4気筒エンジンの重心の低さは、トランスミッションをエンジンの下に置くフツーのFF直列4気筒車はもちろんのこと、これを縦置きしたFR車よりも低いわけです。
さら新世代の水平対向エンジンは、全長が短い。ですから車軸よりエンジンが前に出ても、フロントオーバーハング重量がさほど重たくならない。
だからターンインにかけての回頭性は、大げさに言えば直列4気筒を搭載するFRと同じか、それ以上に素直なわけです。
ブレーキをリリースしながらハンドルを切り込んで行くと、きれいにリアが追従して、クリップに向かってアクセルを踏んで立ち上がって行ける。
そんなにパワーがなくても(2リッターで154PS)、4WDより車重も50kgほど軽いし(1350kg)、駆動抵抗も少ないから、気持ち良く走ってくれるんですよ。
別にドリフトしなくたっていいんです、こういう荷重移動が気持ち良くできれば。
これに対向できるクルマがあるとしたら、同じボクサーエンジンを搭載するスバルBRZとトヨタ86くらい?
いや、それはボディのディメンジョンだって違いますからちょっと大げさですが、でもそう言いたくなってしまうほど、インプレッサSTI Sport(FWD)の走りは楽しいです。
新世代プラットフォームは剛性が高く、水平対向エンジンを搭載することで体幹バランスも取れているから、別に足まわりを固めなくても、サーキットを走れてしまう。タイヤやブレーキにも、負担が少ない。
嬉しくてサルのように走っていたら、最後はCVTが「もうやめて!」と音を上げたので、クールダウンするほどでした。
そういう意味では、これだけ走りが気持ちよいモデルなのだから、やっぱりタフでシンプルで操作が楽しい6速MTを出して欲しい。あとはやっぱり、もう少しエンジンをエモーショナルにして頂きたい!
エモくです、エモく。
ともかくインプレッサSTI Sportは、パワーや速さがなくてもスポーツできるFWD車だったのであります。
そしてお次は、元インプレッサ(笑)。
昨年北米市場向けに209台の限定で発売されたWRXのコンプリートカー、その名もまんまな「WRX STI S209」に乗ることができました。
でもこれ、後からWRXファイナルエディションを買ったユーザーの中には、ホントはコッチが欲しかった人が沢山いたでしょうね。なんせエンジンは、メーカーチューンドのオーバースクエアな2.5リッター「EJ25」。その出力も、約314PS/393Nmにまで高められていたわけで。
その分お値段も約700万円と段違いですから、欲しくてもおいそれと手に入るものでもないのですが。
でも、手に入らないと思うほど、人は欲しくなってしまうものなのです(笑)。
そして肝心な走りは、引きつり笑いがでるほどキョーレツでした。
そのコンセプトは「ニュルを走ったWRX」と同じだそうで、「誰が乗っても安心して、疲れずに、運転しやすいクルマに仕上げている」とのことだったのですが……。
どこがじゃい!
排気量が増えても、相変わらず低回転域でブーストが付いてこないところもあるのですが(タービンが大きくなっているからかな?)、
トルクバンドに入れば冗談みたいな加速がドカーン!
ブレーキを踏めば、制動Gが、やっぱりドカーン!
4WDのトラクションがトルクを一切漏らさず路面に伝え、剛性感たっぷりのサスペンションが、縦でも横でもGを受け止めます。
もしかしたらニュルレベルの荷重領域とか、国際サーキットで走らせれば扱いやすくてしなやかなのかもしれないですが、もてぎのショートコースで乗る限りは、リズムがまったく取れなかった。
それはボブサップかゴリラに乗っかって走っている気分でした。ちょっと古い例えだけれど、クルマの出力特性や動きも、そういうオールドスクールな感じ。ここじゃ全然狭すぎて、コイツの魅力は発揮できないぜっ! ふはははは! です。
なんでもアメリカのファンたちは、わかりやすいクルマが好きとのことで(それもステレオタイプな気がしますけど(笑))、それならこういうロケッティーな走りでもいいのかな。仕様としては完全に、サーキット走行を視野にいれた作りになっていると、STIの開発チーフは教えてくれました。
個人的には、GC8の頃のように、シャシーとパワーの両方を使いながらがんばって走る感じが好き。
でも、80年代後半から30年以上(!)現役を貫いたEJユニットの最終形に乗ることができたのは、やっぱり感慨深いことでした。
(テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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