『クルマは最高のトモダチ』スーパーGT開幕戦で感じた、未曾有のシーズンでも変わらぬコト…山田弘樹連載コラム
7月18日(土)・19日(日)の2日間にかけて、2020年のスーパーGTが富士スピードウェイでとうとう開幕しました!
レースは、私が取材で力を入れているGT300クラスは♯52 埼玉トヨペット GB GR Supra GT(吉田広樹/川合孝汰組)がGT初優勝! GT500クラスもスープラが1位から5位を独占するという、まさに“スープラ祭り”となりましたね。
- レースはGT300・GT500ともにスープラがデビューウイン!特にGT300クラスのスープラはJAF-GT規定で作られたまっさらな新車だったので、その安定した走りには驚きました。吉田広樹・川合孝汰選手、おめでとう!! 写真はプレスルームから(笑)。
ところで今年はコロナ禍の影響によって、レースの内容も大きく様変わりしました。
まず話題に上がるのは「無観客開催」でしょう。
スーパーGTといえば1戦あたりの平均観客動員数が48,000人を超える日本最大級のレースイベントですが、これを無観客で行ったことは、ひとつのセンセーションでした。
観客席を見渡しても、ガラーンとした風景。パドック裏やピットレーンにも、当然いつもの賑わいはなく、まるでスポーツ走行日のような静かさでした。
それでも久々のレースということもあり、選手たちのモチベーションはむしろ高かった。現場で見ている私も、いつも通り真剣にレポートすることができました。
ちなみに開幕戦は公式練習走行が7月18日(土)に行われ、予選と決勝レースは日曜日の1DAY開催に。天候が不安定だったことを受けて、公式練習走行でのタイムが予選に反映される可能性があったことも、土曜日からスタッフのモチベーションも高く、ヒリヒリする緊張感があったワケなのでしょう。
- 金曜日から天候は崩れており、週末は雨の予報でした。しかし日曜日はその予報を覆して快晴に。ガランとした観客席は確かに不思議な感じでしたが、現場にいた人たちのモチベーションはとても高く、素晴らしいレースになったとボクは感じています。
さて、なぜ今回のコラムがスーパーGTなのかといえば、それはボクがこのレースを取材し始めてから、ちょうど10年目を迎えたからです。
10年間の月日は、アッという間でした。でも一番印象的だったのは、その初年度。
GT300クラスでは当時の「GSR&Studie with Team UKYO」が、まだ未知のマシンであったFIA-GT3車輌(BMW Z4 GT3)をいちはやく導入し、死闘の果てに谷口信輝・番場 琢組がシリーズチャンピオンを奪取。
谷口選手は当時無冠の帝王といえる存在で、GT参戦から10年ごしの夢を果たし、男泣きしていたのがとても印象的でした。
彼はボクたち世代のストリートから飛び出したヒーローですが、この時からプロフェッショナルドライバーとしての、本物のオーラを身につけたとボクは感じました。
ドリフト時代もカッコ良かったけれど、チャンピオンをとる年の闘い方や様子を見続けて、もっと彼のことが大好きになったのでした。
- ボクがスーパーGTをパーマネントに追いかけるようになった2011年、谷口信輝選手が初のGT300クラスチャンピオンを獲得しました。谷口選手はここからプロの風格がものすごく高まった。でも話すと変わらぬ谷口選手なのが、なんといっても嬉しいところ。それはやっぱり、彼が真のクルマ好きだからだと思います。
さてボクがGT300クラスを追いかけ続けたのは、仕事である以上に、このクラスが身近な存在だったからです。
現実的にいうとGT500とGT300の両クラスを現場で追いかけることはとても難しいのですが、それでもGT300にモチベーションを持ち続けることができたのは、それが市販車の面影を大きく残していたからです。
特に黎明期である全日本GT選手権時代は、玉石混淆ぶりが面白かった。様々なレーシングガレージがRX-7やシルビア、MR-2をベースに作り上げるマシンは、まるでチューニングカーのようなマシンから、完成度が高いものまで様々。これに国際的なツーリングカーであるポルシェやフェラーリ、BMW M3が挑んで行くという逆転現象も、日本ならではのものでした。
それが現在の状況へと変わったのが、正に2011年でした。Z4 GT3の強さや、コストを含めたトータル・パフォーマンスの高さ、そして何よりマシンの華やかさをみた各チームは、翌年からこぞってFIA-GT3を導入するようになったのです。
完成度が高く、JAF-GT車輌をいちから作り上げるよりもコストがかからないFIA-GT3。当初は紳士協定で、車輌バジェットの上限も3000万円近辺とされていました。
これに対してGTアソシエーション(GTA)は、レーシングガレージの物作りやセッティング能力といった、無形財産というべき技術を枯渇させてはいけない! というコンセプトを掲げJAFーGT MC(マザーシャシー)を提案。
エンジンやシャシー、トランスミッションを共通部品とすることでコスト高騰を抑えながら、空力に影響するボディワークは定められた規定の中で自由に作り変えられるマザーシャシーが2014年からデビューしました。
現在ボクが追いかけている「SGT-LOTUS EVORA」も、このマザーシャシーをベースとして作られたミドシップレーシングカーです。主流はTOYOTA 86のボディで、この他には埼玉トヨペット GreenBraveチームが作り上げたマークXもありました(今年はJAFーGT規定のGRスープラ GTに変更)。
- 2015年から追いかけているカーズ東海ドリーム28の愛機シンティアム・アップル・ロータス(SGT LOTUS EVORA)。ドライバーはエースである加藤寛規選手に加え、柳田真孝選手が加入してツートップ体制となりました。公式練習走行ではトップタイム! 予選も3番手でしたが、レースは惜しくもホイールトラブルで戦線離脱。次回は必ずポディウムを!!
ただそんなマザーシャシーも、現在29台の参加台数のうち、今年はわずかに3台となってしまいました。その理由は様々ですが、FIA-GT3主体のレースでマザーシャシーの特性が発揮しにくいこと、マシンの耐久性、結果的な開発コスト高の問題などが考えられます。
しかしGTAがこうしたトライを試みたのは評価すべきこと。もしGT300クラスがマザーシャシーだけで争われるような状況だったら、GT500と合わせて、スーパーGTはよりソリッドなレースが展開されたのではないか……なんて考えると、それもまた一興です。
そして、思い出しても懐かしいのは、スーパーGTをレポートし出した頃。
当時はまだタテシャカイな雰囲気が残っていて(笑)、プレスルームに行くと「オマエ誰だ?」的な雰囲気がムンムンしてました。
ただ、今考えればそれもありだと思います。スーパーGTは分刻みにスケジュールが進むイベントでしたし、そこで仕事をしている人たちの意識も高い。特にカメラマンたちは、求められた一枚を撮るための緊張感が違います。
だからサポートレースもない今季開幕戦の、このノンビリとした雰囲気は、とても不思議な感じがしました。でも、このくらい余裕があるレースもいいものですね(笑)。
そして毎戦毎戦通い続けると、このシャカイの中に自分の居場所が徐々にできてくる。そう、カメラマンは職人さんですから、認めてくれるとグッと距離が縮まるんです。プレスルームでモニターを見るだけではわからないコースやマシン、様々な情報を、そっと教えてくれたり、ときにはオヤツもくれます(笑)。
今の時代はネットを調べればすぐに結果が得られる世の中ですが、本当に大切なのは、こうしたプロセスです。みなさんがお手軽に得られる情報や結果でさえ、色々な人たちのプロセスによって作られています。だからボクもそのプロセスを踏めたことを嬉しく思うわけですね。
古い考え方かもしれないけれど、よい意味での厳しさや緊張感、そして職人気質は大切にしたいものです。
さて前述の通り今回のスーパーGTは、土曜日に90分の公式練習走行があり、予選と決勝レースは日曜日に行われました。
これにはチームの移動を分散し、宿泊費などを節約してもらう狙いがあったようです。ただ現実的にはガレージ設営のために前日移動する状況もあり、第2戦からは予選/決勝を2DAYで行う従来のスケジューリングに戻すようです。
ともあれGTAとサーキット側は、こうした試行錯誤をしながらコロナ禍への対応を真剣に考えています。そして、無観客レースとなる第4戦までに状況が好転すれば、その先には当然観客動員を見定めている。
ドーム開催のプロ野球が5,000人とはいえ観客動員をした前例を考えると、より換気のよい(というより完全に外ですからね)サーキットなら、その安全性はさらに高いはず……。
ただし座席の間隔を開ける作業や、体温検査設備の充実に関してはサーキット側の対応が必要不可欠ですし、県外移動の問題もあります。
- プレスルームの入り口には、センサー式の体温測定器が設置されていました。マスクをきちんとしていないと「マスクをして下さい!」と注意されます。鼻が出ているだけでも注意されたので、おでこにしてみると、やっぱり注意されました。こうやってサーキット側もきちんと対策を講じています。ちなみにボクたちも、2週間前から検温レポートをGTAに提出し続けているんですよ。
今年は本当に、未曾有のシーズンとなりました。しかし全てのレース関係者が、真摯にその未来を作ろうと、努力しています。無観客レースにも関わらずそのモチベーションはとても高く、大げさでも何でもなく、現場にいると心が奮い立ちます。
自分も、未来を諦めないその姿勢に共感し、10年目となるシーズンを追いかけて行こうと思います!
(写真/テキスト:山田弘樹)
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
[ガズー編集部]
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