『クルマはトモダチ』究極のポルシェ・ケイマンは、911を超えたか?…山田弘樹連載コラム
みなさんゴキゲンよう!
ということで(どういうことかは、前編の記事を!)、今度こそ「718ケイマン GT4 RS」です。
さっそくその印象を言うと、これはもう「公道を走れるFIA-GT4マシン」ですね。ラジアルタイヤを履いた、レーシングカー。
とにもかくにも素晴らしいのは、911GT3から譲り受けたパワーユニットです。
またそこには自然吸気の4.0L水平対向6気筒ユニットだけでなく、クロスレシオのトランスミッションまでもが移植されました。
つまり、ただでさえ強烈なエンジンのパワーバンドが、持続する。
“パアァーッ パアァーッ パアァアー!”です
ここまでやってこそ、現代のレンシュポルトですよ。
というか普通の「GT4」にも、このトランスミッションが欲しかった!
718ケイマン GT4は911由来の3リッターエンジンをNA化しているのですが、そのギア比もターボエンジンと一緒なんですよね。
というか、その手があったか!
たとえGT4 RSが買えなくても、718ケイマンGTSやGT4に、このトランスミッション(とデフ)を組んだら素晴らしいケイマンになるんじゃないかッ!?
と妄想しましたが、カーセンサーを見て、あまりの価格に撃沈しました。GT4ならわからなくもないけど、GTSの中古車まで定価超え(正確にはオプション装備の分だけお得でしょうが)って、どゆことッ!
話が脱線しました。
ちなみにケイマン GT4 RSのエンジンの最高出力は500PS/8400rpmと、911 GT3に対して10PSほど低い出力値。ただそれは、兄貴分である911への遠慮から“だけ”ではなさそうです。
というのもミッドシップのケイマンは、排気をドライブシャフトの上側に避けて、これをエンドまで導かねばならないんですね。
エキゾーストパイプは曲がりくねるほど排気抵抗が増えますから、そこに出力差がでるのは納得。
ただそれだけで10PSにもなるかな? という部分も含めて、兄貴分への遠慮が加わっているのではないかと予測します。最高出力の発生回転数は、同じなんですよね。
実際その印象も高回転のひと伸びで、911GT3の方が突き抜けています。というかGT3は、ちょっと怖いくらい。
とはいえミドル・スポーツカーのエンジンとして考えると、718 ケイマンGT4 RSのエンジンは文句なしに最高級です。
冷間時に聞こえる、固定式ロッカーアームの振動。それが温まりながら整って行く感じは、まさにレーシングエンジンです。
鋭いアクセルレスポンス。踏み込むほどに澄んで行くエンジンサウンドは、まるで超高級オーディオシステムのスピーカーで鳴らしたかのような、ウソみたいなユニゾンサウンドがします。
EVになるといわれる次期型ケイマン/ボクスターは、ぜひこの音をデジタルで再現して欲しいなぁ。
水平対向エンジンだからロングストローク化が難しいというのはありますが、それでもダウンサイジングターボ化せず、自然吸気で102.0×81.5mmというボア・ストロークの超高回転型エンジンを、現代に残したポルシェには、本当に驚くばかりです。
このエンジンに対して、シャシーはどっしり。
カーボンパーツや軽量ウインドーを投入し、GT4よりも35kg軽量化したとありますが、そもそも車重は1415kgもありますし、軽快さは感じません。あるのは、高い剛性感。
荷重領域が低い一般道だと、乗り心地はビシッと硬め。
それでもタイヤからの突き上げを、ドシッと受け止めるシャシーには凄みがあります。エンジンルームにチタン製のロールケージ(オプション)が入っていたとはいえ、ハッチバックとは思いがたい。
そしてその入力の狭間で、足周りがじわっと短く動きます。
今回はサーキットを走る機会には恵まれなかったけれど、なんとなくその走りは想像つきます。
リアウイングは下面の流速を早めるために、上からステーを止めるスワンネックタイプ。通常ツーリングカーのディフューザーは“お飾り”になることが多いけれど、GT4 RSはきちんとセンター部分にスロープを付け、GT4より25%もダウンフォースを高めています。ちなみに911GT3 RSRがミドシップ化したのも、リアの空間を稼いで、ディフューザーの効果を高めるためです。
というワケで本題ですが、果たしてこの718ケイマン GT4 RSは、遂に911 GT3超えを果たしたのか?
残念ながらそれは、できていないと私は感じました。
その差は端的にニュルのタイムにも表れていますが(ちなみに718ケイマン GT4 RSの7分9秒3に対して、911 GT3は6分59秒927で、911 GT3 RSが6分49秒328)、ドライブフィールとしても明確。
911GT3 の方が、ずっと過激です。
GT4 RSをはじめ私たちが718ケイマンに好感や憧れを抱くのは、そのサイズ感だと思います。つまり「911はもう大きくなりすぎた。小さい方がクルマは楽しいよね!」というイメージがある。
でも911 GT3のホイールベースはケイマンよりも短くて、なおかつGT3はリア・アクスルステアを搭載している。だから、実はずっと小回りが効くんです。またリアタイヤをトーインに振ることで、高速コーナーでも走りは安定する。
そして、遂にフロントサスがWウイッシュボーン化したことで、その操舵感も、恐ろしい切れ味になりました。
対して718ケイマン GT4 RSは、オーソドックスな操縦性です。
本当はミッドシップの方が、クルマとしてはリアエンジン・リアドライブよりも旋回性に優れているはず。事実911だって、「RSR」はミドシップレイアウトを採用しました。
しかしポルシェは、ケイマンに下剋上は許さなかった。むしろ911 GT3にカンフル剤を与えることで、ヒエラルキーを明確にしました。不利なRRレイアウトを貫いて、911をトップの座に据え続けた。
私はその判断が、正しいと思います。ドイツをはじめ、ヨーロッパではきっと沢山のアマチュアドライバーたちが718 ケイマンGT4 RSをサーキットやニュルで走らせると思いますが、これなら安心して500PS/450Nmが試せる。
もちろんそこにはスキルが必要だけれど、スポーツドライビングに向き合っているドライバーなら、きっと思い切りアクセルを踏み込める。
718ケイマン GT4 RSには、そのための安定性が与えられています。
そして次のステップに上がるとき、911 GT3やGT3 RSが見えてくる。
あと、“レンシュポルト”一番の魅力は、単なる速さじゃないんです。
ブレーキや冷却系をチューニングしなくても、そのままサーキットを走れること。モータースポーツをトコトン楽しめることなんです。
国産スポーツカーでもこうしたRS的なモデルは増えてきましたが、ここまで振り切ったレーシング・スポーツを提案してくれるスポーツカーって、やっぱり他にない。
718ケイマン GT4 RSは911の、最高の弟分だったというのが、私の結論です。
ドアノブがベルト化されているのはかつての名残ですが、インナードアパネルはトリミング以外標準車と同じ。クルマ的にも、ストイックな軽量化は施されていません。軽さは走りに直結するけれど、やっぱりエアコンやパワステ、パワーウインドー、ナビといった快適装備は必要ですよね。ただそれでも、エンブレムはシールです。ってこれ、コストダウン色の方が強くない? (笑)。
タイヤはミシュラン パイロットスポーツ CUP2(N1)。その扱いやすさやグリップ力の高さは確かに認めるところですが、どうしても浅溝なのが、ガレージ・トゥ・サーキットの使い方を考えると、個人的にはモヤモヤします。雨が降ったら走りには行かないだろうけど、途中で降り出すことだってありますからね。ちなみにホイールは、オプションのマグネシウム製!
山田弘樹
自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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